死にたくない。
私と出会うずっと前。
彼は以前勤めていた会社で仕事中に大きな死亡事故に巻き込まれた。
事故の直接の原因は彼ではないのに、彼の仕事上の立場をいいことに会社はその事故の責任を彼になすりつけた。
彼もその事故で命に別状はなかったものの大きなケガを負ってしまった。
だが、会社の思惑通りに彼に向けられてしまった遺族の怒りの矛先が今も尚、それ以上の痛みと苦しみを彼に与え続けている事を私は知っている。
「2年前までは、俺はべつにいつ死んでもいいと思ってた。
でも、今はまだこの世に未練があるから死にたくないんだ。」
彼は笑顔が可愛いおばあちゃんに向かって、そう話していた。
私にしっかり聞こえるいつもの1.5倍の大きな声で。